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一般講演 P1-192

葉の被食は種子の質的防御を高めるか? 〜コナラ堅果のタンニン量〜

*岩井隆昌(金沢大大学院・自然),田辺慎一(里山科学館キョロロ),木村一也,木下栄一郎,中村浩二(金沢大・自然計測セ),田崎和江(金沢大・理)

光合成器官である葉の誘導防御反応は、多くの植物で検証されてきた。一方、繁殖器官である花や果実の誘導防御についての研究例はほとんどない。防御戦略に関する理論では、葉に比べて繁殖器官の生産にはコストがかかるため、被食前から一定して防御する方が被食後に起こる誘導防御よりも最適であると予想されている。しかし、一般に、繁殖器官への捕食圧はかなり高い。また、葉と繁殖器官の化学的な防御反応が生理的に強く結びついていることが示唆されている。樹木では、種子散布者の多くが捕食者であり、葉への食害が果実や種子の誘導防御を通して繁殖プロセスに影響を与える可能性がある。

本研究では、種子にタンニンを含み、その含有率に大きな変異を示すコナラを対象に、葉の被食が種子のタンニン含有率に及ぼす影響を評価した。葉の被食レベルを操作するために、8本の調査木のそれぞれから5本の枝を選び、無処理、繁殖シュートのみ切葉(50%、100%)、全シュート切葉(50%、100%)の5種類の処理を行なった。他家受粉以外の果実が選択的に中絶され、残った種子の急激な成長が起こる8月上旬に切葉し、その後袋がけを行なった。自然落下が始まる10月に合計296個の成熟種子を採取した。Radial-diffusion法を用いてタンパク質吸着能を測定し、種子のタンニン含有量を評価した。枝の葉乾重の推定値に対する割合に基づいて切葉の効果を5段階の順序変数に変換し重回帰分析を行なった。その結果、種子のタンニン含有率と切葉程度の間に強い正の関係が検出され、コナラの種子における誘導防御反応が示された。コナラの種子には様々な動物が依存しており、葉食者が種子の化学的防御に及ぼす影響を含めた新たな生物間相互作用に対する研究が強く望まれる。

日本生態学会