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一般講演 P1-209

冬季の過剰な光ストレスへの適応が樹木の生活環に及ぼす影響

*宇梶徳史,原登志彦(北大・低温研,JST・CREST)

一次生産者である樹木にとって、光エネルギーを獲得して行う光合成は生存に不可欠であり、光を効率よく獲得することが生存戦略上、極めて重要である。一方で、冬季に零度以下の温度に曝される常緑樹の葉では、吸収された光エネルギーが光合成に利用されずに活性酸素の発生を促進するため、生育期に多くの光を獲得する生存戦略を取ることが、生育停止期では逆に葉は致死的ダメージを受けやすいという結果になってしまう。先の研究において発表者らは、常緑針葉樹のイチイを用いて発現する遺伝子の網羅的な塩基配列決定(EST解析)及び、夏季と冬季の葉で得られたESTの比較解析を行うことにより、(1)常緑樹では光ストレスを回避するための遺伝子を極めて多く発現することにより冬季の光ストレスを回避していること、(2)落葉樹では葉を落とすことにより冬季の光ストレスを回避していることを指摘した。本研究では、冬季に発現する光ストレス防御遺伝子の発現が、実際に葉が受ける冬季の光ストレスと関連しているかを明らかにする目的で、10月末にイチイ針葉を被陰することにより光ストレスを軽減させた葉の生理的季節変化を追跡した。非被陰葉では、光阻害の程度を示す光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)が0.703(10月下旬)、0.837(11月上旬)から0.366(1月上旬)へと季節的に徐々に低下した。一方、被陰葉ではFv/Fm の値は1月上旬でも0.816であり、冬季の光ストレスによる光化学系IIへの生理的影響は見られなかった。発表では、被陰及び非被陰処理間における遺伝子発現変化の違いについても、ストレス誘導性遺伝子の発現解析結果を中心に報告する。

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