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一般講演 P1-217

ブナ林の異なる光環境下におけるブナ当年生実生の立ち枯れによる消失過程−病原菌に対する抗菌物質の同定とその変動−

*山路恵子 (筑波大院・生命環境), 市原優 (森林総研東北)

ブナ当年生実生の消失には菌害による立ち枯れが関与する。光強度の異なる立地での菌害発生率の差には、病原菌に対する化学的および組織学的防御機構が機能していると推察された。本研究では、実生胚軸に含まれる抗菌物質の単離・同定及び定量を行い、病原菌に対する化学的防御機構を明らかにすることを目的とした。6月中旬に林縁で採取した実生胚軸をメタノールに浸漬し減圧濃縮後、酢酸エチル抽出を行い、酢酸エチル層と水層を得た。病原菌Fusarium sp.の小胞子発芽阻害試験の結果、酢酸エチル層に阻害活性が確認された。酢酸エチル層をシリカゲルカラムで分画し、画分(A-F)ごとに発芽阻害試験を行ったところ、画分Eに阻害活性が確認された。HPLC-DAD分析の結果、画分Eに含まれる抗菌物質はカテキン及びエピカテキンであることがわかった。カテキン、エピカテキンはFusarium sp.の発芽、菌糸成長を阻害し、Colletotrichum dematiumの菌糸成長を阻害した。次に、発芽直後〜9月中旬にかけて、林縁と林内の実生胚軸に含まれる抗菌物質の定量を行ったところ、6月中旬以降、林内に比べて林縁の実生の抗菌物質量が顕著に増加し、その傾向は9月中旬まで続くことがわかった。林内の立ち枯れによる枯死が最も多く発生する直前の7月初旬には、林内の実生のカテキン・エピカテキン量は、枯死がほとんど確認されなかった林縁に比べて、1/3程度であることがわかった。以上のことから、光強度の異なる立地における菌害発生率の差異には、組織学的防御機構に加え、抗菌物質による化学的防御機構が機能していると考えられた。

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