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一般講演 P2-013

高緯度北極陸上生態系の炭素収支過程における維管束植物の役割

*野田響(東大・院・農学生命), 村岡裕由(岐阜大・流域圏センター), 内田雅己(極地研), 中坪孝之(広島大・院・生物圏), 小泉博(岐阜大・流域圏センター)

極域の陸上生態系は,地球規模の環境変動の影響が顕著な場所であり、また、生態系の一次遷移が生じる場所として注目されている。高緯度北極域では氷河後退時期や微地形により、遷移段階や植物種組成が異なる小生態系が分布している。陸上生態系の炭素循環機構のうち,光合成によるCO2の吸収と呼吸による放出、およびそれらの収支は,種組成やバイオマス分布,葉の光合成特性の違いにより異なる可能性が高い。本研究では,スバールバル諸島ニーオルスン(北緯78.5度,東経11.5度)のツンドラ生態系において、代表的な維管束植物であるSalix polarisDryas octopetalaSaxifraga oppositifoliaの3種についてバイオマス分布と光合成特性(光合成速度と電子伝達速度の光強度依存性)を明らかにし,氷河後退後の陸上生態系における炭素吸収過程の生理生態学的な特性を評価することを目的とした。

葉バイオマスあたりの最大光合成速度はSalixが124.1 nmolCO2/g/s,Dryasが57.8,Saxifragaが24.4だった。光合成速度は葉の窒素含量を反映して種間で異なった。生育地での微気象データを利用して日積算光合成量を推定した結果,総光合成量はSalixが最も高いことが示された。これまでに行われた植生分布調査と本研究の結果により,当地域のツンドラ生態系では土壌からの栄養塩供給量と種ごとの栄養塩吸収能力が葉の光合成能力と種分布様式,さらには生態系のCO2吸収能力の空間パターンを規定することが示唆された。

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