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一般講演 P2-020

野外培養装置を用いた底棲藻類の安定同位体比および生産量の推定

大井美沙,福森香代子(愛媛大・沿岸),奥田昇(京大・生態研),小泉喜嗣(愛媛水試),武岡英隆(愛媛大・沿岸)

生物や有機物試料の炭素・窒素安定同位体比を測定する技術の普及により、沿岸海域における底棲藻類の基礎生産者としての重要性が最近注目されるようになった。しかし、これまでの研究は、浅海の石や貝殻に付着した底棲藻類を分析に用いたものがほとんどで、沿岸海域の大部分を占める砂泥底の底棲藻類の分析に成功した研究は皆無に等しい。その理由は、砂泥中の底棲藻類と沈降堆積した植物プランクトンを分離するのが技術的に困難なためである。そこで、底棲藻類の沿岸域生態系における重要性を解明するために1)砂泥底に設置した現場培養装置を用いて底棲藻類を純粋培養し、その炭素・窒素安定同位体比を測定する技術を確立する、2)野外実験により、底棲藻類の基礎生産速度を測定し、同海域の植物プランクトンの基礎生産速度と比較することを目的とした。

豊後水道東部に位置する宇和海において、水深5mの砂泥底に培養装置を24時間設置し、藻類の走光性を利用して装置内部のガラスビーズに純粋な底棲藻類を培養させた。培養後、装置を密閉して基礎生産量の測定を行った。装置内で培養された藻類のうち底棲藻類が占める割合は84%であり、その種組成は、現場堆積物とほぼ同じであった。実験で得られた底棲藻類の安定同位体比は、δ13Cが-17.9±1.6‰、δ15Nが1.0±0.8‰であり、一方同海域における植物プランクトンのδ13Cは-21.6±0.6‰、δ15Nは2.0±1.2‰であった。底棲藻類の純光合成速度は0.043mgl-1-1、呼吸速度は0.010mgl-1-1であり、植物プランクトンの純光合成速度は0.042mgl-1-1、呼吸速度は0.004mgl-1-1であった。これらの結果より、宇和海沿岸海域において、底棲藻類は一次生産者として大きく寄与していると考えられた。

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