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一般講演 P2-051

生態系の飢餓適応

*福井眞(東大・広域システム), 嶋田正和(東大・広域システム)

生態系においては、栄養塩を出発点として、植物が一次生産者、その消費者として植食者、あるいはさらに肉食者が存在し、それら有機物を微生物などの分解者が分解して栄養塩にもどす、という物質循環が成立している。植食者はこのとき、ある程度の植食圧をかけることで、かえって植物の生長に一役買う、「grazing optimization」という現象を引き起こしていることが、多くの研究により報告され、モデル解析もされている。物質循環に着目した理論研究では、対象とする生態系への栄養塩はコンスタントに流入するようにモデルがたてられているが、実際の湖沼や河川などでは、季節によって流入が変化するなど、しばしば流入量に変動があることが考えられる。仮に外部からの栄養塩が途絶えてしまった場合、系内の物質循環により、生態系は維持されることとなる。分解速度の違いから、そのような状況下においてはリターの分解から得られる栄養塩よりも、植食者やその高次捕食者からのもたらされる栄養塩のほうが、植物の生長を支えるのに重要になってくると考えられる。つまり、系内に消費者としての植食者あるいは捕食者を抱え込むことは、生態系への流入する栄養塩不足に対する、一時的な回避として働くこと期待される。本研究では、生態系へと流入する栄養塩が一定しないような場合をモデル解析した。そこで、環境変動に対する、植食者の植物への、ひいては生態系全体への寄与を評価し、単に「grazing optimization」を引き起こすにとどまらず、消費者が生態系にとっての栄養貯蓄として機能するのかを考察する。

日本生態学会