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一般講演 P2-071

ミミックの存在はモデルにとって本当に損なのか?

*本間 淳(京大院・農・昆虫生態),高倉耕一(大阪市環境研),西田隆義(京大院・農・昆虫生態)

擬態における疑問の一つとして、ベイツ型擬態においては、ミミックに真似をされることでモデルは一方的に損をしているのに、なぜか「逃げて」いるように見えない。この疑問に対しては、現在おもに2つの説が上げられている1)モデルが「逃げる」よりも速くミミックが「追いついて」しまう可能性と、2)新たな警告色を持つ変異体の受ける捕食リスクは非常に大きいため、ミミックによる寄生を受けている現状の方がましである可能性、が決定的ではない。そこで演者等は、もう一つの可能性3)ミミックの存在はモデルにとってほとんど問題にならない、を検討した。

今回の発表ではこの問題点を克服しつつ、鳥類捕食者を使った実験の結果に基づいて作成した新たな理論モデルの示す結果について紹介する。捕食者が餌の価値について学習、忘却を繰り返しながら「optimal diet choice」を行う場合、モデル・ミミック以外の餌の相対的な価値の低下にしたがって、1)ミミックが増えてもモデルは損をしない、2)ミミックの価値が高い(おいしい)場合にはモデルが損をし、価値が低い(まずい)場合にはモデルは得をする古典的ベイツ/ミュラー型擬態、3)たとえミミックがまずくてもモデルは損するquasi-Batesian mimicry(現在主流の考え)の3つの状態を推移した。しかし、このパラメタ(モデル・ミミック以外の餌の価値)が現実的に取りうると考えられる範囲は、主に1)(場合によっては2)も)であり、3)はほぼあり得ないと考えられた。

この結果は、従来寄生的と考えられてきたベイツ型擬態が実際には片利的であり、ミミックの存在はモデルに対して新たな警告色を進化させる選択圧をほとんどかけない可能性を示唆する。

日本生態学会