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一般講演 P2-090

岡山県毛無山におけるブナ実生の10年間の変遷と光環境

西本 孝(岡山県自然保護センター)

ブナが大豊作となった1995年の翌年の春に多くの芽生えが発生した毛無山で,ブナ実生の個体識別をして,異なる条件下で10年間の追跡調査を行った。

実生が最もたくさん発生した調査区は,ブナが林冠に優占する閉鎖林冠下で,ササの生育しない調査区であった。これに対して開放林冠下では,ササの有無に関係なく実生の発生数は少なかった。種子の供給源としてのブナ成熟木やササの有無が,実生の発生数を決定していた。

ブナ林では,実生はササがある場合には発生後数ヶ月ですべて死亡したが,ササのない場合には,1年後の生存率が閉鎖林冠下で約70%,開放林冠下で30〜50%となっていた。また,スギとブナの混交林でも発生した実生が3年間は生残していた。

10年後に実生が生残した調査区はすべてササなし調査区で,林冠の開閉に関係なく当初の20%程度が生残していた。閉鎖林冠下では1年目に70%程度が生残し,その後徐々に減少して20%程度になったのに対して,開放林冠下では2年間で30%にまで減少した後,8年間で当初の10%程度が枯死して,最終的には20%程度になった。

実生の生残と光環境との関係を明らかにするために,調査区ごとに相対照度を測定した。その結果,ササなし調査区では,林冠の開閉に関係なく4月下旬から5月下旬の林冠が閉鎖するまでの期間の光環境が良好であった。特に閉鎖林冠下のササなし調査区では,6月以降の光環境が生残しなかった調査区と同じ程度に暗い状態であったにもかかわらず実生は生残しており,葉の展開期に林床まで到達する光環境が実生の生残に関係しているものと考えられた。また,相対積算日射量による結果からは,林冠の開閉,ササの有無による光環境の違いが相対照度の結果よりも明確に示され,閉鎖林冠下のササなし調査区では,実生の生残には葉の展開期の光環境が重要であることが示唆された。

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