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一般講演 P2-094

森林帯の境界域における優占樹種ブナの更新セーフサイトの出現とその貢献度

*小林誠,甲山隆司(北大・環境科学),松井哲哉(森林総研・北海道)

気候変動に伴う樹木種の分布適域のシフトが予測される中、実際の個体群の分布拡大メカニズムの動的理解には、森林帯の境界域における樹木の群集動態に関する知見は重要である。冷温帯の優占樹種ブナの優占群集は、北海道南西部の黒松内周辺を分布フロントとして、ブナを欠いた冷温帯林にシフトする。本研究では、1)ブナの分布フロントエリアをまたぎ、樹木群種構造がどのように地理的に変化し、ブナの侵入した群集の構造にはどのような特徴があるのか?2)ブナの分布フロントエリア(森林帯の境界域)において、更新セーフサイトがどこに現れ、どの程度貢献しているのか?を明らかにすることを目的とした。

ブナを含む樹木群集は、ブナの分布フロントにおいて多様性の高い群集が形成され、ブナの隣接個体がブナではない確率がより高くなると考えられた。よって、分布フロントにおけるブナの侵入・定着・成長・個体群の拡大などの諸過程には、他構成種との相互作用がより重要であると予想された。

主要林冠構成種の中で、ブナの開葉はサイトを問わず早い開葉スケジュールを示し、その林冠下は春先早い段階に暗くなった。一方、ミズナラ、ホオノキなど開葉の遅い樹種の林冠下には、春先季節的に光環境が良好なサイト(フェノロジカルギャップ)が出現し、またこれらの林冠下は開葉完了後もブナ林冠下に比べ明るい状態が継続した。加えて、ブナ以外の樹種の林冠下は、その林冠下に侵入したブナ実生・幼樹にとって、母樹依存的な高い捕食圧からの回避が可能と考えられ、かつ個葉特性やシュート成長量から見ても高い成長パフォーマンスが見られた。

以上のことから、分布フロント(森林帯の境界域)における多様性の高い樹木群集構造は、ブナへの更新セーフサイトの供給に正に寄与し、分布フロントにおけるブナ個体群の維持・拡大に機能的であると考えられた。

日本生態学会