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一般講演 P2-143

粗朶生産地における林分構造の変化と林床植物の多様性

*箕口秀夫,西脇護(新潟大・農)

近自然河川工法の資材として利用される粗朶の生産は代表的里山管理形態のひとつである.しかし,その具体的な管理方法や里山生態系への影響は明らかでない.そこで,粗朶生産における伐採周期の合理性と林床植生の多様性に与える影響を検証するため,粗朶伐採後の林分構造と林床植生の変化ついて調査を行った.

調査は,伐採からの経過年数により,伐採後0,1,2,6,12,20,および46年経過した7林分に調査コドラートを設置して行った.毎木調査と植生調査を行い,全天空写真を撮影し相対照度を算出した.

林分構造:0〜1年で幹数は急増して群落が閉鎖し,林床の相対照度は著しく低下した.その後幹数は減少していくが,階層構造が発達していった.また,ナラ類・クリは成長が早く林冠の最上部を形成し,20年には低木性樹種の減少に伴いナラ類・クリの比率が大きくなった.粗朶としての利用価値が高い樹幹長2.7m以上,直径5cm未満のサクラ類・リョウブなどの幹の柔軟な樹種に着目すると,12年の林分で最も幹数は多くなり,それ以降は減少していた.したがって,これまで経験的に決定されていた粗朶伐採の周期は,林分構造の変化からみて合理的であると考えられた.

林床植生:相対照度は群落の閉鎖が起こる0〜1年で劇的に変化したが,その後の階層構造の発達にともなう変化はほとんどみられなかった.この環境の変化に伴い,0〜1年で植生は大きく変化し,1年以降はゆっくりとした種の交替が続いていた.伐採後の経過年数と種,生活型および散布型ごとの出現頻度にはいずれも関連が認められた.このように,粗朶伐採から次の伐採までの再生,放置の過程で,様々な種に生育可能な遷移段階を提供していた.したがって,周期的な粗朶伐採によって多様な遷移段階の林分が散在することが,地域スケールでの林床植生の種多様性を高めていると考えられた.

日本生態学会