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一般講演 P2-170

北極氷河後退域におけるオオツボゴケ科蘚類(糞ゴケ)の胞子散布

*上野健(極地研),有川智己(慶応大・生物),内田雅己(極地研),伊村智(極地研),神田啓史(極地研)

オオツボゴケ科蘚類(糞ゴケ)は寒冷な地域に世界的に分布し、主に動物の死骸や糞の上に生育するコケ植物である。これらは、コケ植物のうち、胞子散布を動物(昆虫、主にハエ)に依存している唯一の種群である。

演者らは、ノルウェー北極スピッツベルゲン島ニーオルスン東ブレッガー氷河後退域において、氷河後退直後の裸地(氷河末端域)に飛来してくるコケ植物の侵入動態を調査したところ、6種類のオオツボゴケ科蘚類の胞子がハエによって運ばれてきていることを見出した。それらは、ハナシマルダイゴケ Tetraplodon mnioides、オオツボゴケ属Splachnumのなかの3種、ユリゴケ属Tayloriaのなかの2種の合計6種である。これらのオオツボゴケ科蘚類の胞子はどこから運ばれてきたのだろうか?このことを明らかにするためにはまず、調査地におけるオオツボゴケ科蘚類の分布パターンを知る必要がある。そこで、調査地全域におけるオオツボゴケ科蘚類の分布パターンを調査した結果、調査地に出現するオオツボゴケ科蘚類は、Tetraplodon mnioidesSplachnum vasculosumAplodon wormskioldiiの3種であり、これらは氷河末端から約1Km以内には分布しないことがわかった。これは、氷河末端域に運ばれてきた6種類のオオツボゴケ科蘚類は、少なくとも約1Km以上の距離を運ばれてきており、なかには調査地外から遠く運ばれてきている種が存在することを意味する。このことは、これまで至近距離での散布しか考えられてこなかったハエによるオオツボゴケ蘚類の胞子散布に、長距離散布の可能性があることを示唆する。

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