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一般講演 P2-176

瀬戸内海島嶼における変形菌類の生態

原紺勇一(基町高・九州大学院)

変形菌類は、真性粘菌とも呼ばれ、国内では400種以上が確認されている生物群である。それぞれの種は、発生に季節性を示し、発生する基物に嗜好性をもつとされる。しかし、長期間にわたる定点観測を通じて、これらを検討した研究はほとんど行われていない。また、変形菌類はデトリタス食物連鎖にて重要な地位を占めるとされるが、具体的な役割はほとんど示されていない。本研究で得られるような生態に関する基礎的な知見の蓄積は、不明とされる生態系内での役割を解明する糸口になると期待される。

本研究では、瀬戸内海広島湾の宮島(厳島)にて定点観測を1年間にわたり行い、発生の季節性ならびに発生基物に対する嗜好性を検討した。調査地の大半は、アカマツ−クロバイ群集(豊原・鈴木 1975)に位置づけられるアカマツ(Pinus densiflora)二次林である。林床には、近年のマツ枯れで枯死した多くのアカマツ腐朽倒木と、カシ類やカエデ類といった広葉樹の腐朽倒木が存在する。これらの腐朽木に発生する変形菌類を対象として、2003年〜2004年にかけてほぼ2週間ごとに調査を行った。調査を通じて1102コロニーを確認し、これらは10科20属84種(変種・品種を含む)に分類された。これらのうち、総コロニー数の3%を超える種を中心に検討を加えた。季節性に関しては、周年みられるもの、特定の季節にのみ出現するもの、春期から夏期にかけて出現するものなど、いくつかの発生パターンに区別できることがわかった。また、針葉樹のみに出現する、広葉樹のみに出現する、双方に出現するなど、基物種に対する嗜好性もうかがえた。さらに、腐朽が進んだ基物に出現するものや腐朽が進んでいない基物に出現するものがあり、基物の腐朽状態に対して嗜好性をもって発生する種の存在が示された。

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