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一般講演 P2-197

ハゼ科魚類ヌマチチブの雄の性的形質と寄生虫及び雄性ホルモンとの関係

*高橋大輔(京都大・理), 三浦猛, 山口園子(愛媛大・農), 田川正明(京都大・農)

ハゼ科魚類ヌマチチブは、雌よりも雄の方が背鰭が伸長するという性的二形を持つ。これまでの調査から、雌は背鰭の長い雄を選好し、また雄の背鰭長と腹腔内の寄生虫(Eustrongylides sp.)数との間に負の相関関係があることが分かっている。今回、繁殖期の雄の背鰭長と体内寄生虫数、そして雄の性的形質発現に影響すると思われる精巣サイズ及び雄性ホルモンの一種である11-ケトテストステロン(T)の血中濃度との関係を調べた。雄の生殖腺指数(精巣重/体重)は背鰭が長く寄生虫に感染している群(以下、鰭長感染)で最も高く(2.78%±0.91SD, n=5)、背鰭が長く寄生虫に感染していない群(鰭長未感染:2.06%±0.51, n=4)と背鰭が短く寄生虫に感染している群(鰭短感染:2.14%±0.79, n=4)では中程度で、背鰭が短く寄生虫に感染していない群(鰭短未感染:0.98%±0.50, n=6)では最も低かった。これは、精巣が発達している雄ほど背鰭を伸ばすことができる一方で、寄生虫に感染しやすくなることを示唆する。一方、血中T濃度は鰭長未感染で最も高く(4.54ng/ml±1.19SD)、ついで鰭短感染(3.47ng/ml±1.33)、鰭短未感染(2.80ng/ml±1.23)となり、鰭長感染(1.74ng/ml±0.45)は最も濃度が低かった。これは、T濃度と背鰭長との間に関連は無く、また寄生虫に感染している雄ほどT濃度が低いことを意味する。本種では、Tは背鰭以外の性的形質(求愛行動など)の発現により強く関与するのかもしれない。また、いくつかの生物で雄性ホルモンは病原体への免疫機能を低下させることが知られているが、本種ではTは寄生虫への感染を助長させる効果を持たないことが示唆される。

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