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一般講演 P2-208

長野県上伊那地方の中山間地水田地域におけるマユタテアカネの行動パターンと環境との関係

*九鬼なお子(信州大院・農),大窪久美子(信州大・農)

近年、水田地域に生息するトンボ類の減少が問題となっているが、これらの行動や種生態については知見が少なく、基礎的データの収集が必要である。そこで本研究では中山間地水田地域に生息するアカネ属マユタテアカネの行動パターンと環境との関係を明らかにすることを目的とした.2005年に定点個体行動追跡調査を,2006年に標識再捕獲法を用いて水田地域での移動と行動パターンを記録した.

定点個体行動追跡調査の結果から,マユタテアカネのオスは水田と畦での探雌行動と争い・追尾行動が多くみられ,草地や林,住宅では静止やホバリング・見回り行動等が多くみられた.草地や林では探雌行動はあまりみられず,争い・追尾行動は観察されなかった.メスは畦ではホバリング・周回行動の割合が高かった.ペアは観察されなかった(前年度は水田での産卵を確認).オスは水田とその周辺で比較的活動的だった.さらに草地で捕食行動が多くみられ,採餌場所としての利用が考えられた.水田とその周辺では繁殖行動が多くみられ,水田の水辺環境は繁殖場所として重要な生息環境であることが確かめられた.一方,草地等では行動が不活発であり,休息や採餌,ねぐら等で利用する環境として重要であると考えられた.

標識再捕獲法調査は9月から11月にかけのべ22日間行い,542個体を標識した.2回以上再捕獲された個体数は154個体で再捕獲率は28.41%,同一個体の再捕獲回数は最高8回だった.本種の移動性は低いと考えられた.再捕獲数は244回だった.隣接する地域間の移動は6回確認された.水田等の水辺環境間での移動が最も多く,次に水辺環境と草地・林間が多かった.夕刻には水田等水辺環境からねぐらへの移動が推察された.

これらのことからマユタテアカネは水田地域内を移動して,環境を目的別に使い分けていることが示唆された.

日本生態学会