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一般講演 P2-209

断続的に産卵を行なうアオモンイトトンボの雌が受ける性的干渉

*高橋佑磨, 渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

イトトンボ科昆虫の雌には、体色が雄に似て鮮やかな青緑色の雄型雌と、生息地の背景に対して隠蔽的な茶色の雌型雌の2型が出現する。これまで、雌の色彩2型は、雄からの性的干渉が選択圧となる頻度依存選択により維持されていると考えられてきた。しかし、雄による性的干渉と雌の繁殖成功度との関係は調べられていない。

2型の出現比の異なるアオモンイトトンボの地域個体群を5つ選び、交尾活動を開始する早朝(07:00-09:00)と産卵活動を開始する午後(12:00-14:00)、水際の草地で静止中の雄に対して、両型の雌を同時に呈示する二者択一実験を行なった。早朝、どの個体群においても、雄は、各型の雌を偏りなく選んだが、午後になると、各個体群における多数派の型の雌を選択的に選んだ。すなわち、産卵時間帯である午後、多数派の型の雌は、性的干渉を受けやすいといえる。

雌型雌の出現頻度が高い個体群において、産卵活動の開始直前(12:00-13:00)と終了直後(16:00-17:00)に、池の水際にいた成熟雌を捕獲して解剖したところ、雄型雌は体内の成熟卵をほとんど産みつくしていたが、雌型雌では産み残していたことがわかった。雌は、雄の多数存在する水際で、何度も場所を変えながら断続的に産卵を行なっている。枯れたヨシなどの産卵基質に産卵姿勢を保った雌を実験的に固定しても、それを発見した雄が交尾を試みることは稀だったので、午後の雄の干渉は、産卵中の雌ではなく、産卵場所を探索中の雌に対して行なわれるといえた。この干渉が雌の水域への接近を妨げ、産卵機会を減少させるために、多数派の型の雌は充分に産卵できなかったと考えられる。この結果は、雄の頻度依存的な性的干渉が、多数派の型の雌の生涯産下卵数を減少させることを示唆している。

日本生態学会