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一般講演 P2-219

モンキチョウの雄における求愛活動の日周性

*入江萩子(筑波大・生物科学),高松あずさ(東京農大・地域環境科学),渡辺 守(筑波大・生物科学)

モンキチョウは、雄の求愛活動が活発な種で、特に既交尾雌に対する求愛は激しく、一頭の雌に数頭の雄が群がる求愛集団を作ることさえある。本研究では、雄の求愛戦略を明らかにするため、長野県白馬村のスキー場ゲレンデと川沿いの土手で、飛翔中の雄に既交尾雌を呈示し、求愛行動を観察した。8時から15時までの観察時間中、呈示雌を中心とした半径1mの仮想半球内に侵入した雄のうち、約半数が呈示雌に気づいて飛来し、残りは通過した。この割合に日周変化は認められず、草にとまっている雌を雄が発見する確率は、時刻によらずほぼ一定であったといえる。ふつう、野外の雌は、雄の接近や飛来を認めると、逃げたり、翅を拡げて腹部を上げる交尾拒否姿勢を示したりする。本実験の呈示雌は糸でつながれ、翅は接着剤で閉じられていたため、雄の接近に対して、逃げたり、交尾拒否姿勢を示すことはできなかった。そのため、呈示雌に飛来した雄は、雌の交尾拒否信号を受け取らず、求愛行動の次の段階であるホヴァリングへと進んだ。しかし、朝に飛来した雄のほとんどは、ホヴァリングを短時間行なっただけで、接触もせずに雌から去ってしまった。朝に探雌飛翔を行なっていた雄は、呈示した既交尾雌に興味をもたなかったようである。ところが、時刻が進むにつれて、呈示した既交尾雌に対する雄のホヴァリングの継続時間は長くなり、呈示雌に接触する雄の数も増加していった。雌は早朝に羽化を開始し、翅を展開しきったころには雄に発見されて交尾を受け入れてしまう。そのため、朝の草地には未交尾雌が多いが、日中に活動している雌のほとんどは既交尾雌となっている。すなわち、雄は早朝、未交尾雌を優先的に探し、日中は既交尾雌に求愛対象を切り替えていると考えられた。

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