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一般講演 P2-254

霊長類における繁殖の偏りと性感染症の伝播

沓掛展之(理化学研究所・脳科学), Charlie L Nunn (Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)

繁殖の偏り(reproductive skew、以下RSと略記)とは、群れ内同性個体間にみられる繁殖成功分布の偏りを示す。RSには大きな種間差・種内差がみられる。過去のRS研究では、RSを決定する要因、とくに優位個体が劣位個体と繁殖機会を分け合うか否かが議論されてきた。その一方、RSが個体の行動・生態に与える影響は研究されてこなかった(Kutsukake & Nunn, in press, In: Reproductive Skew In Vertebrates, Cambridge University Press)。本研究では、社会性霊長類を対象にオス間RSの決定要因とその影響を分析した。決定要因に関しては、過去に発表された31種のデータを種間比較法によって分析した。その結果、群れ内のオス数がRSに負の影響を与えていた(Kutsukake & Nunn, 2006, Behav Ecol Sociobiol, 60: 695-706)。この結果は、RSがオス間競争によって決定されていることを示している。RSが行動や生態に与える影響については、性感染症に関する研究例を報告する。過去の数理モデル研究によると、単独のオスに繁殖機会が集中する場合、性感染症の感染率は、オスよりもメスにおいて高くなることが予測される。霊長類においてこの予測を検証したところ、予測された性差が存在した。これらの結果から、動物における社会構造の多様性を一元的に理解する軸としてRSが有用であると考えられる。

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