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一般講演 P3-037

藻食性魚類と栄養塩が小サンゴ群体の生存と成長に及ぼす影響

*玉井玲子(琉球大・院・海洋自然),酒井一彦(琉球大・熱生研・瀬底)

サンゴ礁の世界的な衰退が近年問題となっているが、これには撹乱からサンゴ群集が回復する力である「復元力」の低下が深く関わっていると言われている。Bellwood et al. (2004) はこれまでの研究をレビューし、復元力低下の原因として、乱獲による藻食性魚類の減少と陸からの物質流入による海水の富栄養化を挙げた。これらの要因が藻類の生長を促進し、サンゴが藻類との空間競争において不利になることでサンゴ群集の回復が妨げられるという仮説が提唱された。本研究は、Bellwood et al. (2004) の仮説を検証するため、沖縄県の中でサンゴ群集が比較的良好な状態で維持されている西表島において野外実験を行った。

西表島の礁原内に設置した人工基盤に枝状サンゴの一種(Acropora tenuis)を小さく分割して移植し、動物を排除する網掛けを行った。網掛けで藻食性魚類の影響を評価すると同時に、陸からの物質流入がサンゴの成長や生存に及ぼす影響も評価するため、陸の開発が進んでいる上原地域と陸の開発がほとんどない網取地域で並行して実験を行った。実験基盤に付着した藻類の現存量と、移植したサンゴの成長及び生存を計測することで、それぞれの要因の影響を評価した。

その結果、藻食性魚類の摂餌が少ないと海藻が繁茂し、サンゴの成長や生存が妨げられることが明らかになった。一方陸からの物質流入の影響は検出されなかったが、これは物質流入が少ないと想定した地点において藻食性魚類の摂餌圧が非常に低く、物質流入の影響よりも藻食性魚類の影響の方が大きかったためと考えられる。このように、水質が良い場所であっても藻食性魚類が減少するとサンゴの成長や生存が阻害される可能性が考えられ、サンゴに対する藻食性魚類の重要性を示唆する結果となった。

日本生態学会