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一般講演 P3-072

カタクチイワシの稚魚と成魚の餌は同じなのか?ー安定同位体比を用いた食性解析ー

*宮地俊作(日本大・生物資源科学),馬谷原武之(日本大院・生物資源科学),笹田勝寛,河野英一(日本大・生物資源科学)

一般に海産魚類の仔稚魚期は動物プランクトン食であるといわれている.鰓耙を持つカタクチイワシはプランクトン食であり,成魚になっても動物プランクトン食と言われている.しかし,胃内容物を観察したところ,シラスでは動物プランクトンが観察されたが,煮干しでは,植物プランクトンもあった.近年,学校教育において煮干しの解剖を教材とする事が増えており,仔稚魚から成魚にかけて「食性転換」が起きるのではないかとの報告もある.

産地表示のあるシラス・煮干しの加工品及び各地の水試・漁協等の協力を得て,鮮魚の安定同位体比を測定し,食性解析を行った.

分析の結果,音戸や燧灘産の煮干しを除き,シラスは煮干しよりδ15N値が高かった.

鮮魚では,燧灘等,瀬戸内海区では,シラスより成魚の方がδ15N値が高く,鹿島灘,九十九里等太平洋沿岸の成魚では,δ15N値の低いものと高いものの2つのグループに分かれた.相模湾江ノ島産の成魚は,シラスより高いことが分かった.δ15Nが高いのは動物プランクトン食を示唆している.

この違いは,瀬戸内海区のように窒素やリンが富栄養化した海域では,植物プランクトンが多量に発生し,動物プラントンも豊富で,カタクチイワシの餌が十分に存在する.太平洋北区や中区の外洋に面した鹿島灘や九十九里浜では大型の成魚のδ15N値が低い.これは,餌としての動物プランクトンが少ないものと推察される.

これらの結果から,カタクチイワシの仔稚魚と成魚では,成長するに連れて動物プランクトン食から植物プランクトン食に「食性転換」が起きるということが一様に当てはまるとは言えず,鰓耙を持ち,海水を丸飲みする本種では,生息海域の餌の状態により,あれば何でも食べると考えられる.

日本生態学会