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一般講演 P3-111

隔離分布する天然性北限のカラマツ小集団における交配実態

*宗原慶恵, 渡邉敦史(林育セ)

ニホンカラマツは本州中部の亜高山帯を中心に、狭い範囲で天然分布する。その天然分布地域の中心から約300 km離れた宮城県蔵王山系馬ノ神岳(標高1, 580 m )に、「天然性北限のカラマツ」と呼ばれる11個体から構成される(2005年現在)カラマツ小集団が存在する。「天然性北限のカラマツ」は集団内の近縁度が非常に高く、形態や開花時期がニホンカラマツと異なり、集団外からの花粉流入が無いことが報告されている。外部からの花粉流入が無いとすれば、集団内の交配は近縁な個体間に限定されると考えられる。生殖的隔離と小集団化が集団の交配および遺伝的多様性に与える影響を明らかにするために、本研究では「天然性北限のカラマツ」における交配実態を明らかにすることを目的とした。

林木育種センター東北育種場では、1976年に生存していた15個体の「天然性北限のカラマツ」のつぎ木増殖を行い、場内に定植保存した。これらのクローンについて15SSRマーカーを用いて遺伝子型を推定した。「天然性北限のカラマツ」集団の遺伝的多様性はニホンカラマツ天然林と比較して非常に小さく、15クローン中2クローンについては全てのマーカーにおいて遺伝子型が同一であった。またニホンカラマツ天然林では出現しなかった対立遺伝子を保有するマーカーが存在した。林木育種センター東北育種場では、1996年に「天然性北限のカラマツ」より種子を採取し、得られた実生個体を現地、現地外および東北育種場内において育成している。このうち7家系、72個体について8マーカーを用いて遺伝子型を推定した。分析に用いた全ての個体において、母樹自身が花粉親である可能性は排除できなかったことから、この「天然性北限のカラマツ」集団においては集団内のみで交配が行われており、その結果遺伝的多様性は著しく減少していると考えられた。

日本生態学会