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一般講演 P3-117

東北地方におけるオオバナノエンレイソウの集団分化に関する生態遺伝学的研究

*内藤弥生,大原雅(北大・院・環境科学),堀井雄治郎(秋田県)

オオバナノエンレイソウ(Trillium camschatcense)は、北海道全域および東北地方(青森、岩手、秋田県)に分布する林床性多年生草本である。北海道のオオバナノエンレイソウ集団に関しては、染色体変異ならびに酵素多型を用いた遺伝解析から、遺伝的に3つの集団群(北部、東部、南部)に分化していることが示されており、また、この遺伝的な分化が各地域集団における花器形態および繁殖様式の分化と密接に関連していることが、交配実験などから明らかにされている(Kurabayashi, 1957:Ohara et al., 1996)。しかし、分布の南限を含む東北地方の集団については、まだ形態的特性ならびに繁殖様式などに関する充分な調査がなされていない。そこで本研究では、東北地方に生育するオオバナノエンレイソウ集団の遺伝的構造や形態形質、繁殖様式を明らかにすることを目的として行なった。

まず、青森県14集団、秋田県2集団、岩手県1集団の計17集団に関して、花器形態(萼片、花弁、雄蕊、雌蕊)の測定と酵素多型を用いた遺伝解析を行なった。また、うち4集団(青森3集団、秋田1集団)については交配実験(袋かけ処理、除雄処理)を行なった。その結果、東北地方に分布する集団は、北海道の集団と比較して全体的に小型の花器を持つがことが分かった。また、調査した全17集団は低い遺伝的多様性を示したが、クラスター分析の結果から、青森県内の下北半島と津軽半島の集団間では遺伝的分化が見られた。交配実験を行なった4集団はいずれも自家和合性を示したが、除雄処理個体でも種子結実が認められ、種子生産は自殖のみではなく、他殖によっても行なわれていることが明らかになった。

日本生態学会