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一般講演 P3-181

幼虫齢多型の遺伝的基盤と進化の可能性

*清水 健, 藤崎憲治(京大院・農・昆虫生態)

すべての昆虫は幼虫期に数回の脱皮を繰り返し、蛹または成虫となる。この幼虫の脱皮と脱皮の間のステージは齢期(instar)と定義されている。

幼虫がいくつの齢期を経て蛹化、または羽化するのかという形質に関しては、様々なレベルの変異があることが知られている。種が異なると幼虫が経る齢期の数は当然のごとく異なる。比較的近縁な種間でも幼虫の齢数は異なる場合が観察されている。ところが、齢数の変異は種内変異としても多く観察されており、地理的個体群間で変異があることが直翅目、半翅目、鱗翅目などで報告されている。個体群内でも雌雄や系統間で差がある場合や、休眠誘導や餌条件などに対する可塑的な反応として齢数の変異が確認される場合も多い。

脱皮の生理的な制御機構は幼若ホルモンに対する閾値反応によって決定されていることが知られているが、この齢多型現象の生態的な解釈については研究が立ち遅れている。個体群間の齢数の変異が季節適応と関連があるという報告はあるが、齢多型を遺伝的な形質として扱った研究はわずかである。種内で齢数に変異があるならば、この形質が種分化の端緒となり現在観察されるような種間変異として定着する可能性はないだろうか。

オオタバコガHelicoverpa armigeraには餌によって幼虫期の齢数が変わるという可塑的な性質があることが知られていた。ところが今回、我々は、同一餌条件下でも個体群内に齢数の変異が観察されること、さらにこれらの変異が遺伝する可能性があることを明らかにした。また、多くの齢を経る個体は幼虫期のより早い段階で脱皮をする傾向があり、補償生長として齢数が増えたとは考えにくい。異なる齢期を経る個体の適応度上の利益の差と、その進化の可能性について考察する。

日本生態学会