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一般講演 P3-196

日本産高山植物の比較系統地理

*池田啓(京大 人間・環境,チューリッヒ大 理),仙仁径(首都大 牧野),藤井紀之(首都大 牧野),清水健太郎(チューリッヒ大 理),瀬戸口浩彰(京大 人間・環境)

現在の生物の分布には第四紀の氷河の発達と気候変動が大きな影響をもったと考えられている。日本の高山帯は氷河の発達が乏しく、現在の植生も積雪や強風によって維持されている。そのため、氷河による植生の損失は少なく、気候変動の中で現在の生育地に生存し続け、森林植生の回復により分布域が分断され、現在の分布となったことが想像される。本研究では、複数の高山植物による分子系統地理学から、高山植物における現在の分布形成のプロセスを推定することを試みた。葉緑体DNAによる解析の結果、多くの植物(ミヤマキンバイなど)で、氷河の形跡のある中部山岳地域から遺伝的に分化した多型が見つかった。このことは、氷河の発達は日本列島の高山植物の分布に大きな影響を持たず、中部山岳地域には安定した集団が維持され続けてきたことを意味している。また、東北地方以北の集団は、中部山岳地域の集団とは遺伝的に分化しており、その起源が中部山岳地域のものと異なることが示唆された。一方で、コメバツガザクラでは、日本列島の集団間で顕著な遺伝的分化が見られず、現在の遺伝的構造が一度の分布域拡大によって形成されたことが示唆された。これに加え、一部のものに対しAFLPによる解析を行ったところ、葉緑体DNAの結果と大きな矛盾は見られなかった。そして、葉緑体DNAでは遺伝的に均一であった集団の間で、分布域が広がる際の創始者効果の形跡は見られなかった。このことは、分布域拡大には大規模な遺伝子流動が伴ったことを意味しており、かつて連続分布していたことを示唆している。さらに、集団間の関係に地理的なまとまりが見られないことから、現在の集団内の遺伝的構造は分布縮小の際の遺伝的浮動によって作られたことが示唆される。

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