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一般講演 P3-219

人工林の間伐と生物の多様性

岡部貴美子・井上大成・槇原寛・磯野昌弘・*田中浩(森林総研)

現在の日本の林業は、立木価格の低下による採算性の悪化、森林整備の担い手である森林組合の技術水準の低下や経営基盤の脆弱性等を反映して、放置林分や主伐の手控えが増加する傾向にある。森林の多面的な機能を十分に発揮させるためには適切な森林管理・施業が欠かせないとされるが、一般には経済性が最も強く考慮され、どのような施業がバランスの良い機能発揮に適切であるかについてはほとんど議論されない。1992年の生物多様性条約の締結、1995年のモントリオールプロセスの合意、森林認証制度の導入などの流れの中で、もはや持続可能な森林経営は生物多様性の保全なしには語れない。それでは、生物多様性に配慮した施業とはどのようなものなのだろうか。本研究では、人工林の管理手法として代表的な施業である間伐が、昆虫の多様性に与える影響を調べた。昆虫は様々な生態系サービスを提供し、種の多様性も極めて高く好適な材料である。目的は、1)スギ人工林を間伐することによって無間伐林よりも生物多様性が高まるか、2)高まるとすれば急激な上昇をするのか、それとも植物種(食物資源)の増加に伴い徐々に高まるのか、を明らかにすることである。調査地は、林齢が30年前後の間伐直後(1年後)4林分、無間伐4林分とし、周辺の森林の影響が直ちに反映されるように、数百メートル以内に広葉樹林分のあるスギ人工林を選んだ。その結果、間伐林ではチョウやカミキリなどの種数、個体数が無間伐林分よりも有意に多かった。無間伐林で出現する種のほとんどは間伐林分にも出現した。植被率は平均すると間伐林分でやや高かったが、林分によるばらつきが大きかった。これらのことから、間伐によって直ちに昆虫の種の多様性は高まるが、これらの多くは周囲の林分から、間伐で生じた開放空間に飛び込んできた可能性が高いと考えられた。

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