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公募シンポジウム講演 S07-5

雌雄同体性ウミシダ Antedonidae sp.の生活史

小渕正美(東工大・生命理工)

繁殖と世代交代は,生物の生活環の中で最大のターニングポイントといえる.特に海洋性ベントスでは,幼生分散が種の分布に直結するため,繁殖の含む意味は非常に大きい.本演目では,海洋性ベントスの繁殖様式と生活史に焦点を当てつつ,雌雄同体で外部保育性のウミシダを紹介する.

ウミシダ類は,現生する棘皮動物のうち,系統的に最も孤立した一群,ウミユリ綱に属する動物である.近年演者らが沖縄島から採集した小型種,セソコヒメウミシダは,ウミユリ綱からは初報告となる同時的雌雄同体種であり,周年繁殖を行なっている.一般にウミシダ類は放卵放精を行ない,受精卵は海中を浮遊しつつ発生するが,本種では,胚が母体体表に付着した状態で発生する外部保育が観察される.本種は,生息海域では水深10〜20mの転石裏側で高密度個体群を形成しているが,室内で単独飼育した場合にも,幼生の産出が確認される.組織観察からは,貯精や体内受精に関する証拠は見出されておらず,本種が他家受精と自家受精の両方を行なっていることが推測される.水槽飼育では,胚は成体の羽枝表面に2〜4日間付着し,その間に卵割を経てドリオラリア幼生へ変態した.幼生は孵化により自由遊泳へ移行するが,早い場合,孵化後18時間で基質へ定着した.遊泳期間は4日以内に終了し,定着を起こさない個体は異常な変態を起こし死亡することから,本種幼生の分散期間は多種に比べ短く,延長不可であると考えられる.

本種はウミシダ類としては異質な繁殖様式を持ち,生息密度が極端に低下した場合にも確実に繁殖を行ない,幼生をすばやく定着させて個体群密度を増加させることが可能である.その結果,野外で観察される高密度個体群が形成されると考えられる.本種の繁殖戦略には,生息環境の変動性が影響を及ぼしていると推察される.

日本生態学会