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公募シンポジウム講演 S08-4

霧島山系小池の小扇状地における照葉樹林の群集構造と地形の関係

井藤宏香(鹿児島大・院・農)

山地の渓畔林において、植物群落の配分・構造を規定する重要な要因として河川による地表変動撹乱があげられる。山地の扇状地渓畔林は、複数の土砂堆積が複合して形成されており、河川縦断方向に沿って撹乱のタイプ、頻度およびサイズが変化する。植生の違いを決める重要な要因がこの撹乱作用であることから、扇状地における河川縦断方向に沿った地形形成プロセス(浸食、土砂堆積)を理解する必要がある。そこで、南九州の霧島山系小池の小扇状地の照葉樹林において河川縦断方向に沿った地表変動撹乱に関連した樹木の種組成分化と多様性パターンを調査した。渓畔ゾーンをV字谷(VV)、扇頂部(UF)、扇央部(MF)および扇端部(LF)の4つの地形に区分し、4つの地形ゾーンおよび隣接する一般斜面(SL)において胸高直径3cm以上の樹木の分布を調査した。DCAの解析結果から河川縦断方向に沿った種組成の変異がみられた。また、ギルド解析の結果から、各ゾーンに対応したギルド構造がみられた。渓畔ゾーンはSLギルドの種の割合が低く、また落葉樹によって特徴付けられる低頻度出現種の割合が高かった。扇端部(LF)は立木密度が低く、掃流堆積物が頻繁に堆積する平坦で不安定な地表面に成立する種が存在することから、LFの種組成は一般斜面と比べて最も特殊化していた。地表面が低頻度な土石流堆積によって覆われている扇頂部(UF)および扇央部(MF)では種組成の特殊化はそれほどみられなかったが、高い立木密度や多様性(特に低頻度出現種)がみられた。渓畔ゾーンにおいて、流路形成による微環境の不均一性が高い多様性の維持に貢献しているかもしれない。これらの結果から、扇状地内の異なる立地環境および撹乱体制が多種の共存にとって重要な役割を果たしていることが示唆された。

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