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公募シンポジウム講演 S09-6

ダム下流の環境改善を目的とした取り組みの評価

河口洋一

貯水ダムは、流域における人為的改変のなかでも物質や生物の移動を妨げる構造物であるため,河川生態系に大きな影響を及ぼしている。底生動物を対象にした研究から、ダムによる土砂供給の抑制が、ダム下流の河床材料の粗粒化を引き起こすことによる底生動物群集の変化、ダム湖からのプランクトン流下にともなう濾過食者の増加など、複数の影響が報告されている。このような研究から示されるように、治水・利水といったダム本来の機能に加え、今日ではダムによって引き起こされる河川生態系への影響をいかに低減させるかが大きな課題となっている。国内でもダム下流の環境改善のため様々な取り組みが行われている。本研究で注目する清水バイパスもその一つで、清水バイパスは貯水池に流入する水をダムの放流施設(ダム下流)に直接流入させる施設で、ダムからの濁水の長期的流出を抑え、ダム上下流の水温差を小さくし、さらにプランクトン流出を減少させるなど、ダム下流の環境対策に効果があると期待されている。しかし、建設後20年が経過しているが、上述したような効果を検証する取り組みは行われていない。そこで本研究では藻類や底生動物を対象として、清水バイパスのあるダム(厳木ダム)とないダム(伊岐佐ダム)の上下流に調査地を設定し、比較することによってその効果を検証する調査を行った。藻類そして底生動物の群集組成は、バイパスのあるダムとないダムで大きく異なり、藻類についてはバイパスのないダム下でのみダムから流下したと思われる浮遊性藻類が多くみられ、底生動物ではバイパスのないダム下では流下物濾過食者が多いのに対し、バイパスのあるダム下では藻類食者の個体数が多かった。シンポジウムではこれらの結果を紹介し、清水バイパスの機能について考察する予定である。

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