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公募シンポジウム講演 S11-2

連続分布するトドマツ個体群における標高に対する適応反応−1976年に設定された標高別相互移植試験の結果から−

*後藤 晋 (東大・北海道演習林)

針葉樹は遺伝子流動が活発なために集団間の分化度が低く,連続分布する個体群内には遺伝構造が発達しないことが多い.しかし,我が国のような山岳地帯では連続分布する個体群でも,生育する標高によって温度,風速,日射などの気象条件が大きく異なるために,それぞれに適応した反応を示すと考えられる.特に高山帯や亜高山帯などの特殊な環境下では,葉の形態変化や矮化などしばしば表現型の著しい変異が認められる.こうした表現型の変異が環境によるものなのか,遺伝的に決まっているものかを知るためには,相互移植実験が有効である.しかし,長命で個体サイズの大きな針葉樹では標高間の相互移植の例が少なく,どの程度の標高差で適応が起こるかといった実態はよく分かっていない.北海道の中央部に位置する東京大学北海道演習林では,標高200m程度から森林限界近い1200m程度までの同一斜面に,針葉樹のトドマツが連続的に分布している.当演習林では,標高230mから1250mまでの異なる8つの標高からトドマツ種子を採取・育苗し,1976年9月に,230〜1100mの6標高に3年生ポット苗を2反復で植栽する相互移植実験を開始した.各標高のおける植栽個体数は,2反復×8産地×5母樹×5個体の400個体である.2004年9月から2005年3月に毎木調査を行い,生存と成長(胸高直径と樹高)を調査した結果,いずれの植栽標高においても,種子産地との標高差が少ないほど生存率×平均樹高が大きくなり,それぞれの産地標高に適応していることが示された.高標高(930mと1100m)では標高の違いによって生存率が有意に異なり,230m〜730mまでの標高域では種子産地と植栽地の標高差が大きくなるほど平均樹高が低くなった.以上の結果から,異質な環境間での種苗の移動が適応形質に及ぼす影響などについて議論する.

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