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公募シンポジウム講演 S13-6

神奈川県に定着したアカボシゴマダラからの展望

高桑正敏(神奈川県立生命の星・地球博物館)

アカボシゴマダラ(タテハチョウ科)は北ベトナムから中国、朝鮮半島、台湾、奄美諸島に分布し、大陸産、台湾産、奄美諸島産の3亜種に分けられている。ところが、何者かによって中国から大陸産亜種が持ち込まれ、2000年に入って神奈川県藤沢市・鎌倉市・横浜市南部からアカボシゴマダラの記録が続出するようになり、2006年には神奈川県の東部一帯から東京都にかけて分布拡大するに至った。現在では、神奈川県東南部ではもっとも普通に見かけるチョウの1種となっている。

本種のような外来種の存在は、いくつかの問題点を浮かび上がらせる。まず、残念なことだが、海外からチョウ生体が無許可で持ち込まれている実態である。その目的が飼育趣味であれ、研究であれ、商売であれ、違法行為であることに変わらないが、その違法性に対しては行為者もチョウ関係者も一般に認識が低い。ある雑誌では、アカボシゴマダラへの反省が全くないばかりか、生態研究のよい機会だとあおる始末である。

生物多様性を損なうという意識も欠けている。他のチョウへの影響が見られないのだから、目くじらを立てる必要はないと主張する人もいれば、かえって生物多様性が増すからよいことではないか、と言う著名な生物学者も存在する。このような言がまかり通るのも、生物多様性の本来の意味が理解されていないからであろうし、利己的な考えに立つ人たちが多いからであろう。

演者は、アカボシゴマダラという意図的な外来種が分布拡大していった様子を紹介する。併せて、自然史に立脚した生物多様性を尊重する立場から、その背景にある安易な放チョウ意見について苦言を呈したい。

日本生態学会