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公募シンポジウム講演 S14-2

花粉分析による植生復元ー京都盆地北部での森林の変化

佐々木尚子(総合地球環境学研究所)

約1200年前の平安京造営以来,京都盆地は一貫して人口集中地であり,周辺植生は人間活動の影響を強く受けてきた。本研究では,京都盆地北部の深泥池において堆積物を採取し,花粉分析による植生復元をおこなった。花粉分析によって復元される植生の空間スケールは,試料を採取した堆積盆の大きさによって異なることが知られている。深泥池は三方を低山に囲まれた約9haの池であり,Sugita-Prentice Modelによれば,この堆積物に含まれる化石花粉の組成は周囲数kmの範囲の植生を反映していると考えられる。採取した堆積物のうち,深度約360cmまでを5−10cmおきに1cm厚さ(約10−100年分に相当)で切り出し,化石花粉を抽出して同定・計数した。また,K-Ah火山灰層と6点の放射性炭素年代を基に堆積速度を推定し,年間花粉堆積量を算出した。その結果,深泥池周辺では,約7300年前のK-Ah降灰以降アカガシ亜属が増加し,およそ2000−1300年前にはアカガシ亜属・コナラ亜属にスギをともなう森林であったが,約1300年前(7世紀)にマツ属(アカマツ)が増加しはじめ,900年前(11世紀)頃には,アカガシ亜属が減少してアカマツを中心とする二次林に変化したことが明らかになった。約200年前(18世紀)以降はマツ属花粉がさらに増加し,高木花粉の30−70%を占める。廣瀬・高原(未発表)によれば,アカマツ林内の表層土壌中のマツ属花粉出現率は約35%である。林内の表層土壌中の花粉組成は直上に生育する植物に強く影響されるが,より広い範囲から飛来した花粉をとらえている深泥池堆積物のマツ属花粉出現率がこれよりも高いことから,18世紀以降の深泥池周辺はアカマツが優占していたと考えることができる。マツ属花粉の年間堆積量も,18世紀以降の層準でもっとも多く,深泥池周辺のアカマツが増加したことを示唆している。

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