| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-001

青森県八甲田山における森林土壌の花粉分析による後氷期のオオシラビソ林の変遷

*中村琢磨(横浜国大院・環境情報),大野啓一(横浜国大院・環境情報),高原 光(京都府立大院・生命科学)

オオシラビソ(Abies mariesii)は日本固有の代表的な亜高山性針葉樹である.東北地方のオオシラビソ林の成立は,花粉分析の研究から約2500年前のモミ属花粉の増加開始に起因し,特に西暦915年の十和田a火山灰の降灰後に急速に発達したと考えられている.一方,十和田a火山灰とオオシラビソ林の関係は明らかではなく,オオシラビソの生態的特性,局地的な環境変動,植生変遷を結び付けた検討が必要である.本研究は,オオシラビソ林の局地的な植生変遷と十和田a火山灰の関係を考察した.

試料採取地は,青森県八甲田山の櫛ヶ峰(標高1514m)の南斜面標高1287mの雪田である.雪田の周りは樹高6~8mのオオシラビソ林が分布する.土壌試料は全長70cmで深度23‐26cmに十和田a火山灰を挟んでいた.十和田a火山灰直下の花粉組成は,モミ属花粉が約2%と少ないながら検出され,スギ花粉6%,カバノキ属花粉15%,ブナ花粉43%,コナラ亜属花粉14%,その他の広葉樹花粉20%であった.また,草本花粉は27%でイネ科花粉が優勢であった.十和田a火山灰以降,高木花粉ではモミ属花粉が深度10cmで9%に漸増すること,最表層のスギ植林によるスギ花粉の増加の他は明瞭な変化はない.一方,草本花粉は十和田a火山灰以降に急増し,カヤツリグサ科,アザミ属,セリ科,サクラソウ属花粉など現在の雪田草本群落に共通する分類群が検出された.以上から,この地点では十和田a火山灰以前からオオシラビソが存在していた.十和田a火山灰の前後で高木花粉組成に明瞭な違いは認められないことから,火山灰によってオオシラビソ林が著しく損なわれた可能性は低い.また,現在の雪田草本群落は火山灰による地表の土壌環境の改変によって形成されたと考えられた.


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