| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-474

最終氷期を通して異なる歴史を経たツリバナ集団の接触帯における挙動

*岩崎貴也(首都大・牧野標本館),青木京子(京都大・院・人環),瀬尾明弘(地球環境研),村上哲明(首都大・牧野標本館)

現在、温帯林は日本列島全体の山地を中心に広く分布している。しかし、今から約2万年前の最終氷期最盛期(現在より気温が7-8 ℃低下)には、その分布を現在よりも大きく南下・縮小させていた。それが氷期後に急速に分布を変化させて現在の分布域を形成したと考えられている。このような急速な分布変遷の影響は、温帯林構成種に共通してみられる遺伝構造として残っていることが期待される。我々はこれまでの研究で日本列島の温帯林に広く分布するツリバナ、ウワミズザクラ、ホオノキ、アカシデの4種について、日本列島内に日本海側地域・関東地域・西日本地域という、3つの遺伝的まとまりが共通してみられることを明らかにした。これについて我々は、最終氷期に温帯林が少なくとも3つのレフュジア(待避地)に分かれ、氷期後にそこからお互いに混じり合うことなく上述の3地域に分布を拡大させた結果であると考えた。また同時に、日本列島の中心に位置する中部山岳地域は、これら3地域がその後さらに分布を拡大させて接触している地域であることが予想された。この接触帯に何も障壁がない場合、遺伝構造はすぐに解消に向かうことが予想されるが、日本列島全体では現在もかなり明瞭な遺伝構造が維持されている。

本研究では、最終氷期を経て形成されたと思われる遺伝構造が接触帯において維持されている要因について明らかにすることを目的として研究を行った。具体的には、ツリバナを材料として中部山岳地域全体をカバーする約20地点からそれぞれ約25個体についてDNAサンプルを採取し、葉緑体DNA非コード領域と核SSRマーカー6遺伝子座について解析を行った。得られた遺伝構造と、山脈などの地形条件や降水量などの気候条件を比較し、遺伝構造の障壁として働いていると思われる要因を探索した結果について報告する。


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