| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-342

ヤマトオサガニ個体群における左右性比率の変動

寺西 肇(京大院・理),堀 道雄(京大院・理)

魚類を用いた研究などにより、動物には広く左右非対称性いわゆる左右性が存在し、それが捕食-被食関係を通して群集の動態に寄与していることが示唆されている。先行研究によりカニ類の甲羅の形態には左右性が存在し、ほぼ全ての個体を右型もしくは左型に分別でき、さらにシオマネキ(Uca arcuata)などでは甲羅の左右性は鉗脚左右性と相関していることが示された。このような左右性は何らかの機能を持ち、種内多型として維持されてきたと考えられる。本研究ではアシハラガニ(Helice tridens)とヤマトオサガニ(Macrophthalmus japonicus)の捕食-被食関係における左右性の役割を検証した。

アシハラガニとヤマトオサガニはともに干潟に生息し、アシハラガニは雑食性、ヤマトオサガニはデトリタス食性である。両者が混在する干潟ではアシハラガニはヤマトオサガニを捕食している。調査地におけるこの2種のカニの集団内の右利き、左利きの割合を調べたところ、アシハラガニでは左利きが多数派であり、ヤマトオサガニでは右利きが多数派であった。またヤマトオサガニを捕食中のアシハラガニを採集し、得られた捕食者、被食者について形態計測を行った。その結果、アシハラガニは同じ利きのヤマトオサガニを捕食する傾向があった。多数派である左利きのアシハラガニが左利きのヤマトオサガニを捕食することで、左利きのヤマトオサガニはより高い捕食圧に晒されていると考えられる。さらにヤマトオサガニの干潟に定着した直後の集団について個体群における右利き、左利きの割合の経年変化を調査したところ、一年間で右利きの割合が有意に増加した。これはアシハラガニから受ける左利きに偏った捕食圧を反映していると考えられ、被食者集団の右利き、左利きの割合が捕食圧により変動することが示唆された。


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