| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC1-362

自動撮影法から明らかになったタイ南部の孤立林における地上性哺乳類・鳥類の種多様性

*北村俊平(立教大学・理), Siriporn THONG-AREE(タイ王立森林局), Sitichai MADSRI(タイ王立森林局), Pilai POONSWAD(マヒドン大学・理)

種の在不在情報は地域の保全戦略の策定には必要不可欠である。しかし,森林生態系を代表する生物となる大型の地上性動物の直接観察は難しい。近年,野生動物の種数や出現頻度を調査する方法の一つとして,赤外線センサーとカメラの組み合わせによる自動撮影法が広く用いられている。本研究では,タイ南部ナラチワ県ハラ・バラ野生生物保護区に残存する低地フタバガキ林に生息する地上性哺乳類・鳥類相を明らかにするために自動撮影法を利用した調査を行った。

2004年10月から2007年9月にかけて天然林,二次林,丘陵林の3箇所の森でそれぞれ5台の自動撮影カメラ(Fieldnote)を使用し,のべ11,106 カメラ日の調査を行った。撮影された動物は,哺乳類35種,鳥類8種,爬虫類1種だった。撮影された44種のうち,21種がタイ国レッドデータブックに掲載されていた。撮影された種数は3つの森林間で類似し(天然林:30種,二次林:28種,丘陵林:26種),調査努力量と撮影された種数の関係を示した希釈曲線には相違は見られなかった。撮影された動物の活動時間帯は人間活動の影響を受けて変化しているとは考えられず,ハラ・バラ野生生物保護区の動物への周辺住民による人間活動の影響は少ないと考えられた。

半島マレーシアの先行研究と比較するとハラ・バラで記録された哺乳類の種数は若干少ないが,この地域に生息する大型哺乳類の大部分が記録されていた。そのためハラ・バラのように周辺を農地や二次林などの人為的撹乱の影響が大きい場所に囲まれた小面積保護区であっても,狩猟などの人間活動の影響を最小限にとどめることで,回復が困難な大型動物の保全に役立つことが示唆された。


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