| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PC2-783

ツキノワグマの一年間の行動解析

*上馬康生,山田孝樹(石川県白山自然保護センター)

最近はGPS受信機付首輪をつけたクマの行動調査が各地で行われ、貴重なデータが蓄積されつつあるが、今まで報告されたものでは調査期間が数か月以内と短いものが多い。その一因はバッテリーの寿命と調査目的が必要とする受信間隔との関係であり、また冬眠にともなうGPSの未回収を防ぐためである。今回、冬眠期間も含めた一年間の行動を調べるために活動量センサー付GPS首輪(GPS受信間隔3時間)を装着したクマを追跡し行動データを得ることができた。2006年9月14日の捕獲時に雌10歳で子を連れていたこのクマの冬眠期間は同年11月8日から2007年4月20日までと考えられ、1年間の行動圏面積は約23.0km2(MCP法)であった。1年間の活動量を分析したところ、全体的には薄明時に活発である傾向が強かった。しかし時期により活動量の増減がみられたり、活発な時間帯に変化があったりした。通常は昼行性であったが、集落周辺のカキノキの実に執着していた時期は日中に休息し夜間に活動する傾向に変化したことなどが明らかとなった。冬眠中はGPSの位置データが得られておらず、また冬眠中の活動量は基本的には少なかったので、このクマは冬眠中に穴から出ることはなかったと推定される。また冬眠中に活動量が多くなる時間帯が不定期にみられたが、その原因を考察するには子の存在の有無や冬眠中の行動を含め今後公表される他の事例との比較が必要である。次に冬眠中のクマを再捕獲(2008年3月7日)してVHF発信機を装着することで約2年間にわたる行動を追跡することができた。冬眠場所は2006年(標高約1,000m付近)と2007年(標高600m)とでは直線距離で約6.6km離れた異なるところであり、主な行動範囲は2006年、2007年、2008年で大きな違いはみられず、クマの雌成獣が定住性を示すといわれている結果と一致した。


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