| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-106

異なる気候帯における森林ギャップへの葉の応答

*小野田雄介(Macquarie Uni), Lora Richards (Uni Nevada Reno), Mark Westoby (Macquarie Uni)

森林の林冠ギャップ下は、閉鎖林冠下に比べて、明るく、また多くの被食者や捕食者が存在し、林床植物を取り巻く環境は大きく異なる。また熱帯と温帯では、温度のみならず、ギャップによる光環境の変化や被食圧も異なる。私たちは林床に生育する稚樹の葉の性質(特に力学・構造的性質)がギャップに対してどう応答するかについて、オーストラリアの熱帯、亜熱帯、温帯雨林で調査した。

6調査地のべ29種の常緑樹を通して、ギャップ環境では閉鎖林冠下に比べ、面積あたりの葉重量(LMA)が高く、葉を貫通するのに要する荷重(Fp)が高かった。Fpの変化の原因を、(1)葉の厚さ、(2)密度、(3)細胞壁へのバイオマス分配、(4)細胞壁あたりの強度の積として解析すると、前二者はギャップ環境で正の貢献をしていたが、後二者は負の貢献をしていた。これはギャップ環境の葉は、厚く、高密度である一方で、柔らかい組織が多いことを意味する。これに対し、種間のFpの違いでは、4つの要素それぞれがFpに正の寄与をしていた。つまり、光順化による葉の強度の変化と種間の葉の強度の違いは、異なるメカニズムに起因することが分かった。

熱帯、亜熱帯、温帯間では、葉の力学・構造的性質そのものに明確な違いはなかった。しかし、熱帯植物は温帯植物に比べ、ギャップによる光環境の変化に対する応答(表現型可塑性)が有意に弱かった。これは熱帯の林床植物がより高い耐陰性をもち、また高い被食圧に対応して、保守的な戦略を取っていることに起因するかもしれない。


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