| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-107

異なる地形に生育するヒノキの光合成

*壁谷 大介(1), 韓 慶民(2), 千葉 幸弘(2) (1: 森林総研・木曽, 2:森林総研)

地形の多様性は、栄養塩・水などの土壌資源量の多様性を生み出す要因の一つである。一般的に、尾根は乾燥かつ貧栄養的であるのに対して、谷は湿潤・富栄養であると考えられている。地形の違いに伴う土壌栄養条件の多様性−とりわけ窒素濃度−の多様性は、異なる地形に生育する樹木の生葉・リターの窒素濃度の差をもたらす。葉の窒素濃度は光合成能力と深い亜関係があることが知られているため、異なる地形に生育する樹木は、その地形が示す土壌窒素濃度に応じた光合成能力を示すことが予測される。そこで本研究では、異なる地形に成立しているヒノキ人工林において、土壌の窒素条件の多様性を明らかにし、異なる地形の間における土壌窒素濃度の違いがヒノキの光合成能力に与える影響を明らかにすることを目的とした。そのために、長野県・木曽郡に成立する約85年生のヒノキ林内の異なる地形三カ所(尾根区・中間区・谷区)に固定試験地を設定し、各調査地の土壌および生葉・リターの窒素濃度を定量した。また、地形の違いがヒノキの光合成に与える影響を評価するため、尾根・中間区のヒノキ成木から採取した樹冠上部の切り枝を用いて光合成測定を行った。

その結果、土壌の窒素濃度は予想に反して尾根区で最も高かった。これは、尾根部分の地形が比較的なだらかであり、土壌の移動が生じにくいことによると考えられる。ヒノキ生葉・リターの窒素濃度も、土壌窒素条件を反映して尾根区生育の個体で最も高かった。また樹冠上部の葉のVcmax, Jmaxは、季節変化をするものの、シーズンを通して尾根生育の個体で高いことが示された。葉の光合成能力の調査地間の差は、Narea の違いでほぼ説明でき、地形の違いに伴う土壌窒素条件の違いが、異なる地形に生育するヒノキの光合成能力の差を生み出していることが示唆された。


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