| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-128

湿原性スゲ属植物の窒素同化酵素活性と窒素利用様式

*中村隆俊, 小泉優人, 斉藤卓(東京農大・生物産業), 中村元香(千葉大・理)

湿原をはじめとする泥炭地に生育する植物にとって、窒素は最も不足しがちな物質のひとつであり、乏しい窒素資源に対する植物の様々な適応戦略の違いは、湿原生態系における植生分布メカニズムの要と考えられる。湿原の主な植生景観は、大型のスゲが優占するフェンと、ミズゴケが地表面を覆い矮小なスゲ等が優占するボッグに大別され、これまでに主要種の窒素利用戦略がフェンとボッグで全く異なることが明らかにされている。しかし、窒素肥沃度の総合的指標である土壌水の溶存態全窒素濃度については、フェンとボッグで大きな違いが認められないことが多く、窒素利用戦略の違いに関する因果的な解釈はなされていない。

一方、近年、有機物の分解が遅い北方系の森林やツンドラに生育する植物種群において、無機態窒素(NH4+/NO3-)以外に有機態窒素(アミノ酸)の直接吸収が示唆されている。そのため、有機物分解が停滞しやすい北方湿原生態系においても、有機態窒素は植物にとって重要な窒素源となっている可能性が考えられる。従って、北方湿原生態系の植生分布メカニズムや植物の窒素利用戦略には、窒素の存在形態(NH4+, NO3-, アミノ酸)の違いや、各窒素形態に対する吸収・同化能力の種間差等が深く関わっている可能性がある。

本研究では、フェンとボッグの植生景観をそれぞれ特徴付ける2種のスゲ(ヤラメスゲ、ホロムイスゲ)の実生を別寒辺牛湿原のフェンとボッグに相互移植し、土壌水中の窒素形態、両種の成長解析、窒素利用様式および硝酸態窒素同化活性(NRA)・アンモニア態窒素同化活性(GSA)を測定した。さらに、全窒素吸収速度に対する全無機態窒素同化速度の関係から、有機態窒素への依存度について考察した。


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