| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-144

葉の構造と蒸散メカニズム 表皮が無くてもしおれない葉

*澤上航一郎, 舘野正樹 (東大・院・理・日光植物園)

陸上で進化した高等植物は貴重な水分を保持するために表皮をクチクラで覆い、二酸化炭素の吸収は気孔という開閉できる小さな穴に大きく依存している。このため、葉の防水能力は表皮のクチクラ、二酸化炭素獲得能力は気孔のサイズと密度に大きく依存していると思われがちである。

本研究ではツユクサ (Commelina communis) を用い、表皮を剥離した葉の最大蒸散速度、最大光合成速度を測定し、無傷葉と比較した。微風下(約0.03 m/s)では、葉の通水による水分供給が蒸散による消費速度を上回り、表皮を剥離した葉が萎れて枯死することなく光合成をし続けた。蒸散速度は表皮を剥離しても殆ど変化せず、気孔が開いた状態の蒸散速度を維持していた。光合成速度も表皮の有無による差は殆ど無く、気孔を介することによる二酸化炭素の律速は小さく、光合成速度は光合成酵素の量などによる光合成能力に依存していることが示唆された。

風速が早い場合(約2.5 m/s)、表皮を剥離した葉の蒸散速度は無傷葉の蒸散速度を大きく上回り(2〜3倍)、葉は枯死してしまった。しかし、表皮を剥離した葉の葉肉細胞に水滴を滴下すると、葉肉細胞は水をはじき、ぬれることはなかった。また同様に油滴を滴下すると、葉肉細胞は油滴を吸収し、ぬれてしまった。このことから、葉肉細胞自体も薄いクチクラなどの疎水性の膜に覆われ、水分が蒸発しない構造になっていることが示唆された。疎水性の正体が何なのかは今後検討したい。

本研究では、葉肉細胞の表面が水にぬれておらず、微風下では表皮なしでも光合成を続けることができること、そして最大光合成速度は表皮を剥離しても変わらず、必要以上に気孔の数を増やすよりも気孔を十分に開くことが二酸化炭素の獲得に必要であることを示した。


日本生態学会