| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-146

落葉広葉樹2種の実生における成長・防御・貯蔵への炭素分配パターン

*今治安弥(奈良県森技術セ), 清和研二(東北大・院・農)

森林のように光環境が不均一な環境では、構成種間にギャップでの成長と林内での生存にトレードオフが存在すれば、それらの種が共存できるといった仮説が近年注目されている。仮説の中では、樹木の成長、防御、貯蔵への炭素分配パターンにおける種間の違いが、各種のハビタットでの成長や生存に影響し、トレードオフが生じると考えられている。しかし、これまで成長・防御・貯蔵の3者への分配を同時に調べた研究例はほとんどない。本研究では、耐陰性の異なる2種の実生をギャップと林内で育て、相対成長率(RGR)、炭素の防御物質量(総フェノール・縮合タンニン)、炭素の貯蔵物質量(非構造炭水化物:TNC)について調べた。

ギャップでのRGRは耐陰性の低いクリが耐陰性の高いミズナラに比べて高くなったが、逆に縮合タンニンと総フェノールの濃度はミズナラの方がクリに比べ高くなった。茎と根のTNCの含有量は、2種で差がなかった。また、防御や貯蔵への炭素分配とは独立した成長への炭素分配を示す構造的バイオマスの成長量(GRstr)と縮合タンニン濃度との関係を調べたところ、ミズナラでは正の相関関係が得られたが、クリでは得られなかった。それに対し、GRstrとTNC含有量との関係は、2種ともに正の関係が得られた。これらの結果は、ミズナラが炭素を成長や貯蔵よりも防御に分配することを示し、防御優先型の分配は植食者や病原菌などによるダメージの大きい林内での生存を図る上で有利であると考えられる。反対に、光要求性の高いクリは、炭素を防御よりも成長に多く分配し、個体間の成長が激しいギャップなどの明るい環境での定着を保証しているものと考えられた。したがって、この2種の炭素分配パターンはそれぞれのハビタットでの生存戦略を示しており、種間の炭素分配パターンの違いが成長と生存のトレードオフの成立に寄与することが示唆された。


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