| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-166

非定常状態を考慮した葉内水の酸素安定同位体比の決定要因の解明

*大橋達矢(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大・生資)

葉内の水の酸素安定同位体比(δ18O)は蒸散に伴って変化するため,瞬間的な蒸散量を反映することが理論により示されている.この理論は室内実験によって定常条件下で検証されてきたが,野外の植物を用いて検証を行った例はきわめて少ない.そこで本研究では中国内蒙古自治区毛烏素沙地において,優占樹種であるヒノキ科常緑針葉樹の臭柏(Sabina vulgaris Ant.)を対象として,葉内水のδ18Oや蒸散量,環境条件の日変化の測定を行い,葉内水のδ18Oの決定要因を考察した.葉内水のδ18Oは蒸散量の大きい日中は高く,蒸散量がほぼゼロになる夜間は低いという日変化を示した.得られた観測値を定常状態での蒸発による水のδ18Oの変化を表現したCraig-Gordonモデル,それに葉内での水の移流拡散の影響を加えたPécletモデル,また,葉から出て行く水の量(蒸散量)と茎から葉に流入する水の量に不均衡があることを考慮したnon-steady stateモデルを適用した.その結果, Craig-Gordonモデルはδ18Oを過大評価した.また,Pécletモデルは日中のδ18Oを再現できたが,夜間では過小評価した.non-steady stateモデルでは日中,夜間ともδ18Oをよく再現できていたが,それでも一部の時間帯に予測値と実測値のずれが生じた.以上の結果から,野外の樹木において葉内水のδ18Oは日中,定常状態に近い状態にあるが,蒸散が盛んではない時間帯では非定常状態にあることが示された.また,葉内水のδ18Oは蒸散量と葉への水の移流量,葉内で起こる水の拡散によって決定されることが示唆された.


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