| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-132

里山林を伴なった大学キャンパスにおける生態系 (7)野鳥類の環境別群集構造

*桜谷保之,鳥居憲親,桑原崇,鈴木賀与,寺田早百合,杉田麻衣,平野綾香,錦一郎(近畿大・農・環境管理)

近畿大学奈良キャンパスは奈良市郊外の矢田丘陵にあり、面積は120haで、里山林、湿地、沢、農耕地、溜池、グラウンド、校舎等、多様な環境から構成されている。当キャンパス内には95種のレッドリスト動植物が生息・生育するなど、かなり生物多様性に富んでいる。野鳥はこれまでに104種記録されており、季節的、年次的変動は第55回の本大会で報告した。今回はこうした環境毎の野鳥群集についての調査結果を報告し、里山管理や保全をめざすことを目的とした。

調査は2008年6月から2009年5月の1年間、原則として月2回、ルートセンサス法で行なった。キャンパス内の環境を里山林内、溜池(2か所)、農耕地、グラウンド(2か所)、校舎(2か所)に分類して、重複を避けて種ごとに個体数を記録した。

今回の調査では62種、5,958個体の野鳥が記録された。種多様度指数は里山林内が最も高く、続いて溜池Aで、グラウンドや校舎は低い値を示した。また、レッドリスト種が多かったのは溜池Aや農耕地であった。各環境において優占種もかなり異なり、群集の重複度は里山林内やグラウンドでは他の環境とは比較的低い傾向を示した。キャンパス内でも環境により、鳥類群集構造がかなり異なることが示唆された。さらに、レッドリスト種は1つの環境にしか出現しない傾向を示した。しかし、普通種でもスズメやムクドリは里山林内では全く記録されない等、かなり環境を選んで生息することも示唆された。

野鳥類は飛翔によってかなり自由に移動できる動物であるが、環境を選んで生息する種も少なくなく、こうした環境の選択性は、繁殖場所、採餌場所等によって決定されることが推察された。従って、里山管理や保全には、野鳥の生息面からは、校舎も含めたこうした多様な環境の維持管理が不可欠と思われた。


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