| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-199

シダクロスズメバチのCHC組成による巣仲間認識

*佐賀達矢,土田浩治(岐阜大院・応用生物・昆虫)

社会性昆虫の体表炭化水素(CHC)組成比を指標とした巣仲間認識は、社会性を維持するための基礎だと考えられている。しかし一部の多女王制の種では巣仲間認識が厳密に機能していないことが報告されている。それは、巣内にワーカーの母系、父系が複数存在する多女王制の種では先天的、後天的もしくはその両方に由来するCHC組成比が多様化するためだと考えられている。本研究では、単女王制・多回交尾種であり、巣内のワーカーの父系が複数存在するシダクロスズメバチにおける巣仲間認識について調査した。自巣に異巣のワーカーを導入した結果、87%の個体が拒否され、本種には巣仲間認識が機能していることが示された。

本種の巣仲間認識に用いられるCHC組成比が先天的なものか後天的なものかを明らかにするために室内実験と化学分析を行った。ワーカーを羽化後すぐに母巣から隔離し、CHC組成比への後天的な影響を排除した。この隔離ワーカーを1日齢から3日齢まで用意した。実験装置内に巣盤を設置し、同巣のワーカー30個体を定位させ、これを反応ワーカーとした。そこへ、反応ワーカーと同巣もしくは異巣の隔離ワーカーを導入して反応ワーカーの行動を観察した。その結果、導入した隔離ワーカーが反応ワーカーと同巣の個体であっても、異巣の個体を導入した場合と同様に反応ワーカーに拒否された。

反応ワーカーと隔離ワーカーのCHC組成比についてガスクロマトグラフィーを用いて化学分析を行った。その結果、反応ワーカーと、同巣の隔離ワーカーのCHC組成比に差がみられた。この差はCHC組成比への後天的な影響によるものであると考えられた。以上の結果から、本種においては、先天的なCHC組成比だけでは巣仲間と認識されず、認識されるためにはCHC組成比への後天的な影響が必要であると考えられた。


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