| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-236

動物プランクトンの対捕食戦略: 誘導防御と消化耐性

*坂本正樹(国環研・リスクC),永田貴丸,花里孝幸(信州大・山総研), 田中嘉成(国環研・リスクC)

繊毛虫やワムシ類、枝角類では、特定の捕食者の存在下で形態や行動などを変化させるものが知られている。これらの防御を誘導する要因として、捕食者から放出されるカイロモン(受容者側が利益を得る情報化学物質)が一般的に知られ、様々な生物種間でその存在が確かめられてきた。さらに近年、捕食者によって引き起こされる水の攪拌や攻撃などによる「物理的刺激」も至近要因として複合的に働くことが明らかになってきた。カイロモンを含む化学刺激は、被食者が捕食者との遭遇前にその存在を感知して対策をとる際に利用される。また、物理刺激により誘導される防御戦略は、捕食者と出会った時の死亡リスクが高くない場合に有効となる。例えばゾウミジンコ(枝角類)の場合、捕食者カイロモンに曝された個体では付属肢の長さが変化し、捕食者との物理的接触がある条件では付属肢の形が変化した。このようにプランクトンは物理・化学的刺激を個別に識別し、被食のリスクに応じて異なる防御対策をとる事がわかってきた。ワムシ類も同様に捕食者誘因性の形態防御を獲得しているが、今回行った実験から、捕食者に食われた場合でも大部分の卵は消化されずに排出されることがわかった。ワムシの卵は水中で1日以内に孵化するため、消化されずに残ったものはそのまま個体群動態に影響を及ぼすことが示唆される。

湖沼生態系における捕食−被食関係の多くは体サイズ依存的で、形態防御のほとんどは体を大きくして食われにくくなるようにする戦略である。しかし、体の小さなワムシ類ではこの他に、消化耐性という別の対捕食戦略を獲得してきたことが明らかになった。本発表では、体サイズと被食者の防御戦略について議論する。


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