| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-271

クモの造網行動における、複雑な行動のコストと対捕食者防御

*中田兼介(東京経済大), 輪湖千春, 森貴久(帝京科学大・アニマルサイエンス)

動物が環境の複雑性に対応するための一つの方法が、行動の複雑性を増すことだと考えられる。一方で、観察される行動は必ずしも常に複雑なものとは限らない。このことは、複雑な行動にコストが存在することを意味していると考えられる。本研究では、クモの造網を対象に行動の複雑性と時間コストの関係を明らかにすることを目的とする。

ギンメッキゴミグモCyclosa argenteoalbaの垂直円網は、上半分の半径が下半分より大きいという上下非対称性を示し、その程度には変異が見られる。非対称な網を造るには、造網時に自分の位置を常に把握し、上半分と下半分で横糸の間隔を違えるか、どちらかでUターンしながら横糸を張ることで本数を違える必要がある。これは、非対称な網を造るためには情報処理に負荷のかかる複雑な行動が必要であることを意味している。

そこで、ギンメッキゴミグモの造網行動を実験室下でビデオ撮影し、網の非対称性と造網時間の関係を解析した。その結果、単位長さあたりの横糸を張るのにかかる時間と網の非対称性との間に正の相関が示された。このことは、行動が複雑になるとその遂行にかかる時間コストが増大することを示していると考えられる。また、捕食者の翅音を模した音叉刺激に曝したクモの張る網は、そうでないクモと比べて、対称性が強かった。このことは、捕食リスクを認識したクモが、襲撃される危険の高い造網にかかる時間を短縮するため、網の複雑性を下げているものと解釈できる。このことは、複雑な行動のコストという観点が、捕食者-被食者関係といった生態学的現象を解釈する上でも重要であることを示唆している。


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