| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-305

捕食者種によるスクミリンゴガイの逃避行動の違い

*上島慧里子,遊佐陽一,奈良女大・理

スクミリンゴガイPomacea canaliculataは新生腹足類に属する淡水巻貝で、南米原産ではあるが食料として導入されて野生化し、現在では日本を含むアジアにおいて稲を食害する有害動物として大きな問題となっている。

本種は同種他個体が捕食などにより傷ついた際に出される体液(以降、貝汁)や捕食者の匂いに対して逃避行動を行うことが知られている。捕食者種の違いにより逃避行動を変化させる例が淡水巻貝で従来知られているが、新生腹足類では明確な結果は示されていない。また、複数の捕食者と単一の捕食者の匂いに対する逃避行動を比較する研究例は、淡水巻貝で非常に少ない。そこで今回、本種の有力な捕食者と目されるコイとクサガメそれぞれの匂い、および両種の匂いが共存した場合におけるスクミリンゴガイの逃避行動の差異について調べた。

貝汁や各捕食者の匂いからなる単一の刺激因、貝汁と同時処理した単一の捕食者の匂い、および貝汁と同時処理した単一または複数の捕食者の匂いという3つの実験シリーズにおいて、貝の逃避行動の比較を行った。その結果、本種は捕食者の匂いのみよりは貝汁に対して高い逃避率を示した。また、貝汁と同時処理したクサガメの匂いに対して潜土行動を、コイの匂いに対して水上回避を行う傾向がそれぞれ高かった。このことから、本種は捕食者に応じた逃避行動を示すことが示唆された。さらに、複数の捕食者の匂いが存在すると、単一の捕食者の場合よりも逃避率が高い傾向が示された。つまり、本種は捕食リスクに応じて逃避行動を変化させると考えられる。


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