| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-011

子育てするクワガタムシ? -チビクワガタの集団生活における幼虫への作用-

*森 英章(自然研),千葉 聡(東北大・生命科学)

甲虫ではいくつもの分類群において子育てがみられる。特に、幼虫の食物が動物の死体や糞のような高栄養だが腐りやすい資源、または木材のように長持ちだが消化しにくい資源である場合、親世代が子世代の食資源を改善することが社会性進化の要因の1つとなると考えられている。クワガタムシにおいても幼虫が木材を利用するが、一般的には産卵後に成虫が同居することはなく、幼虫は自力で腐朽木を噛み砕いて食べ、長い年月をかけて成長する。しかし、その中にも特異なクワガタムシが存在する。

チビクワガタFigulus binodulusは腐朽木の中で成虫と幼虫が同居することが知られている。成虫は朽木内に坑道を掘り、他の昆虫を捕食する。幼虫は同じ朽木の中で短期間に成長し、わずか2ヶ月ほどで羽化することができる。このような生活史のクワガタムシにおいて、成虫による幼虫への作用が存在するか検証した。

成虫と同居させた実験区では幼虫のみの実験区に比べて幼虫の成長率が上昇し、羽化後の体サイズも増大した。成虫による幼虫への直接給餌は観察されなかったが、成虫と同居しなかった幼虫の死因がほぼ全て餓死であったこと、成虫によって作成された木くずが微粒になることから、成虫による木くずの状態の改善が幼虫の成長に寄与していると考えられる。これは、幼虫期に消化しにくい資源を利用するクワガタムシにおいて、亜社会性が1つの戦略として観察できる事例と考えられる。

一方で、成虫が幼虫を捕食する事例が観察された。この共食い率は別の朽木内に生息していた成虫と同居する場合に増加する。何らかの巣仲間認識のための機構が存在する可能性がある。


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