| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-019

クワガタムシは材食性?それとも菌食性?

棚橋薫彦,松下範久,久保田耕平,富樫一巳(東大院農)

樹木の材は昆虫にとってきわめて利用の困難な餌資源である.材はその大部分が難消化性の高分子化合物からなり,昆虫の成長・発育に必要な栄養に乏しい.そのため,材に穿孔して生活する昆虫の多くは,材を餌資源として利用するために菌類(キノコ,カビ,酵母など)と密接な関係を持っている.例えば,ある種のキクイムシは材に穿孔するが,材を直接食べるわけではなく,材の中でカビを栽培してそれを食べる。カミキリムシやクロツヤムシの腸内には材の構成糖であるキシロースを資化する酵母が存在し,これらは宿主昆虫の栄養摂取を助けている。一方でこれらの昆虫とは異なり,菌類との明確な共生関係は知られていないが,餌とする材に元々存在する菌類を利用するものもいる.その代表的なグループが,腐朽材を食べるクワガタムシ科である.

クワガタムシの幼虫が食べる腐朽材には多くの菌糸バイオマスが含まれる。したがって,幼虫は材と菌糸を同時に摂取すると考えられるが,そのいずれが栄養源として重要であるかについては不明であった。また酵母などの腸内共生菌は,材の消化に寄与すると同時に栄養源としても宿主昆虫に利用される可能性があるが,クワガタムシにはどのような共生菌が存在し,それがどのように保持・伝播されるかについては未解明の部分が大きい。

演者らは,無菌化したコクワガタ幼虫と人工飼料を用いた実験系を用いて,コクワガタ幼虫が菌糸のみを利用して成長・発育可能であることを示した。すなわち,コクワガタ幼虫は材を食べているが,生理学的には実は菌食性であると言える。また演者らは,日本産クワガタムシ科のほぼ全ての種の雌成虫から菌嚢(マイカンギア)を発見し,その中にキシロースの代謝能力を持つ酵母が存在することを明らかにした。これらの結果を踏まえ,本発表ではクワガタムシ科と菌類との関係性の進化について議論したい。


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