| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-036

初期生活史の異なるクサフグとトラフグにおける紫外線耐性の個体発生と種差

*福西悠一,益田玲爾,山下洋(京大・フィールド研)

【目的】クサフグ(Takifugu niphobles)とトラフグ(T. rubripes)は極めて近縁の魚種ながら、前者は波打ち際で孵化し浅い海域で成育するのに対し、後者は水深10-50mの海底で孵化した後、仔魚期の前半を底層で過ごし、稚魚になると干潟域に出現する。そこで本研究では、両魚種の紫外線耐性および黒色素胞の分布状態を、個体発生を追って比較することにより、‘両魚種は紫外線に対して異なる適応戦略を持つ’という仮説を検証することを目的とした。

【方法】紫外線耐性実験:両種について、卵黄仔魚、開口仔魚、屈曲前仔魚、屈曲仔魚、屈曲後仔魚および稚魚の発育段階において実験を行った。仔稚魚を容器に収容し、4つの異なる強度(A:1.8, B:1.1, C:0.4, コントロール:0 W/m2)の紫外線に4時間暴露させた。照射が終了してから24時間後まで数時間おきに生残数を調べた。また、強度AとBについて半数致死時間を算出した。黒色素胞の観察:両種の仔稚魚について背面上方から写真を撮影し、皮膚上の黒色素胞を観察した。

【結果と考察】両魚種の紫外線耐性を比較すると、卵黄仔魚から屈曲前仔魚まではクサフグの方がトラフグよりも強かった。しかし、屈曲後仔魚と稚魚では、種間差はみられなかった。したがって、両魚種は、各生息環境の紫外線強度に対応した耐性を備えていると考えられた。また、黒色素胞は、卵黄仔魚から屈曲前仔魚にかけて、トラフグよりもクサフグの方が多いのに対し、屈曲仔魚以降は、明瞭な違いはみられなかった。すなわち黒色素胞は、両魚種の紫外線耐性に違いをもたらす一要因である可能性が示唆された。紫外線への適応は、魚種や発育段階によって異なることから、紫外線の増大によって将来魚種組成が変化する可能性がある。


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