| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-047

野外展示のための刈り取り管理と草原性植物の開花状況との関係

*井上雅仁(三瓶自然館), 高橋佳孝, 堤道生(近中四農研センター)

島根県立三瓶自然館には半自然草原が隣接しており,そこでは季節に応じて草原性植物の開花がみられる.これらの草花は,多くの来館者が興味を示し,また教材や解説対象としても使いやすいため,重要な野外展示物となっている.現在この草原は刈り取り管理で維持されており,その頻度は場所により異なる.草丈が異なるだけでなく,開花状況にも違いがあると推察される.引き続き,草原性植物の保全と野外展示物としての利用を予定しており,今後の管理方針検討のため,刈り取り頻度の違いと草原性植物の開花状況との関係について調査を行った.

現地には,刈り取り頻度の違いにより,植生高の異なる箇所が存在する.刈り取り頻度が年2〜3回,年1〜2回,年1回の3箇所を対象として,それぞれに20m四方の調査区を設定した.各区の名称は植生高の違いから低茎区,中茎区,高茎区とした.平均植生高は約0.2m,約0.5m,約1.0mであった.2004年から2008年の5か年間,冬季を除く時期に,月に1回調査区内を歩き,開花がみられる花茎数を種類ごとに記録した.

全体的な傾向として,年間を通じての開花種数や各種の開花茎数は,中茎区で多い傾向にあった.一方,高茎区では,開花種数は比較的多いものの開花茎数は少ない傾向にあった.本区では,ススキのような特定の高茎草本の優占度が高まり,他の草原性植物の生育が制限されるためと考えられる.低茎区では,開花種数,開花茎数ともに少ない傾向にあった.本調査地においては,年1〜2回の刈り取りで植生高を中庸な状態に管理することが,年間を通じて多くの開花種数や開花茎数を保つのに適していると考えられる.一方で,春咲きの草本の中には低茎区で,秋咲きの草本の中には高茎区で多数の開花茎数を示す種もあり,刈り取り頻度の異なる箇所の重要性も示唆された.


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